ゆるめるモ！あのちゃんまとめ売り アイドル 円高還元

　店舗などの看板が老朽化して落下する事故をなくそうと、人間ドックならぬ「看板ドック」と名付けたサービスを掲げる企業がある。最新技術で老朽化の進み具合など、看板の安全性を数値化する試み。看板に特化した点検事業に参入したのは、約8年前に起きた悲惨な事故を繰り返さないようにという社長の思いがあったからだ。

かに料理店の事故が契機に

　店舗の外壁に取り付けられたりポールに支えられたりした看板の落下事故を未然に防ぐため、看板ドックを開発したのは東京都世田谷区の看板製作会社「レガーロ」。これまでの点検は目視や触診が中心だったが、看板ドックは超音波検査機器などを使って看板内部や地中の基礎部分の劣化状況を診断し、部分ごとの危険度を「診断カルテ」として顧客に示す。

　開発のきっかけは20代の女性が重傷を負った事故だった。2015年2月に札幌市の飲食店「札幌かに本家　札幌駅前本店」で看板が落下。歩道にいた女性の頭部に直撃し意識不明の重体となった。裁判資料によると、店の外壁に設置されていた鉄製看板の支柱の一部（長さ1・5メートル、縦横30センチ、重さ約25キロ）が約15メートル下の路上に落下した。接続部分が腐食などで劣化していたという。

　「看板が人を傷つけてしまったことがショックだった」。アパレル事業を経て、04年ごろから看板の製作・販売を手がけるようになっていたレガーロ社長の高倉博さん（52）は当時を振り返る。同時に危機感を募らせた。「こんな悲惨な事故が続いたら、看板を設置する人がいなくなって、業界の未来がなくなるのでは」

過去12年間で事故15件

　看板落下事故は全国で起きている。国土交通省によると、公表を始めた10年12月以降、看板の落下事故は全国で少なくとも15件に上り、けが人も10人いる。札幌市の事故を受け、国交省が実施した緊急調査では、自治体から報告があった計約4万8000棟のうち1516棟で看板の補修が必要という結果が出た。

　看板などの街中に設置されている屋外広告物は、基本的に都道府県や政令市などの条例に基づき、設置の届け出のほか数年に1度の点検・報告が義務付けられる。だが、国交省が自治体に出した指針案では点検方法は原則、目視・打診検査などとされている。

　高倉さんは「これまでの検査は職人の勘や経験に頼っていた部分が大きかった。そして、点検をしても事故が起きてしまっていた」と指摘する。

　札幌市の事故で落下した看板も、市の条例で定められた点検は実施されていたが、異常は指摘されていなかった。

他業種のノウハウを活用

　高倉さんは札幌の事故後、取引先の飲食店担当者に老朽化した看板の取り換えを提案した。担当者は「危ないのかもしれないが、客観的な根拠がないと会社の稟議（りんぎ）は通らない」と打ち明けた。看板に関する明確な安全基準がないことが背景にあると考え、高倉さんは「科学的根拠のある検査ができれば、事故を防げる」と、開発に奔走した。

　最初の課題は安全基準の設定だった。東洋大理工学部と共同で、過去にあった通信用ポールや標識の倒壊事故の原因を分析し、劣化状況との関係を検討し、独自の安全基準を設定した。地中の基礎部分や看板内部は、標識の安全検査でも使われている超音波検査機器を活用し、劣化状況を数値化しようと考えた。

　さらに鉄道会社OBを顧問に迎え、鉄道会社で実施している点検方法や安全管理のノウハウを取り入れて開発を進めてきた。開発が本格化すると、すでに設置されている約50基の看板で「模擬検査」を繰り返してデータを収集した。

　18年に看板ドックをスタート。費用は1店舗あたり約15万円で、21年度までに全国の飲食店や小売りチェーンなどから約300件の依頼があった。

　街中にある看板は戦後の高度経済成長期に設置された看板も多いとされるため、今後さらに事故のリスクが高くなる可能性もある。こうした背景や顧客の間で口コミが広がったことで看板ドックの需要が高まり、22年度は3月までに約300件を受注する見通しだという。

　高倉さんは「看板に携わる者として、看板で悲しむ人をゼロにしたい。看板の製作・販売だけでなく、安全管理まで徹底するのが私たちの責任だ」と意気込む。【安達恒太郎】