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　障害のある子供たちが心待ちにする軽トラックが今日も宮城県内を走る。キッチンカーに改造した荷台には「移動型こども食堂おやつ部」というペンキの文字。僧侶の斎藤無冥（むみょう）さん（58）が半年前から、熱々のたい焼きを子供たちに無料で配って回る。「社会貢献」のつもりはない。100日しか生きられなかった娘の分も、子供たちに笑顔になってもらいたい。ただそれだけだ。【土江洋範】

　「はいよ、粒あんっ！」。雪が舞う師走の金曜日、斎藤さんは荷台の窓から大きな体を乗り出し、車椅子の子供らにたい焼きを手渡していた。ここは仙台市のNPO法人「UBUNTU（ウブントゥ）」の施設で、重症心身障害児や医療的ケア児ら14人が「放課後デイサービス」を利用している。

　トラックの周りは、さながら小さなお祭り会場だ。たい焼きをほおばった後、荷台に乗せてもらってキッチンを観察したり、焼き上がったものを紙袋に包んで手渡す役をしたり。ウブントゥ理事長の佐々木綾子さん（36）は「キラキラした顔をしているでしょ。障害のある子供はリアルな体験を得る機会が少ないから、こうした小さな積み重ねが将来につながるんです」と感謝する。

　斎藤さんは、この活動を「自己満足」と言う。アルバイトで稼いだ生活費と寄付をもとに7月に活動を始め、県内7カ所の放課後デイサービスを何度も訪問してきた。子供たちと接すると亡くした我が子を思い出す。「もし生きて大きくなっていたら」と想像した姿を重ね合わせている――。

　斎藤さんは宮城県塩釜市の出身。2001年、36歳で妻との間に第1子を授かった。当時従事していた農業を意味する英語のアグリカルチャーから取って「あぐり」と名付けた。待望の娘だったが、病院から自宅に連れて帰ることはかなわなかった。18番染色体が通常より多く、一般的に短命とされる疾患「18トリソミー」と診断されたからだ。

　斎藤さんは「俺の子だから丈夫なはずだ」と自らに言い聞かせ、生後100日目には病室でお食い初めをして祝った。しかし願いは届かず、あぐりちゃんは直後に体調を崩して息を引き取った。

　自暴自棄になった斎藤さんの生活は荒れた。妻とは離婚。東北一の歓楽街である仙台市の国分町に出入りし、違法風俗店の経営に関わり始めてしまった。夜もほとんど眠れず、自殺願望に悩まされた。ある時、「俺は何のためにこんなことをやっているんだろう」と我に返った。娘を失った現実から逃げていただけだった。

　「あぐりの供養のために生きる」。43歳になった2008年、宮城県利府町の寺で修行して出家した。15年には隣の大郷町に一軒家を借り、子供を亡くした親の相談や水子供養を受ける自前の“寺”を開いた。新型コロナウイルス禍で20年に閉鎖するまで、シェルターとして家庭内暴力で行き場を失った女性や子供を受け入れた。

　キッチンカーは当初、こうした女性の就労支援と活動費を稼ぐため、イベント会場で焼きそばやたこ焼きなどを販売していた。そこで親子連れを見ているうちに、ふと疑問が湧いた。「障害などの事情があってここに来られない子たちはどうしているのか」。もし娘が生きていれば医療的ケアが必要だっただろうし、人混みには連れてこられなかったはずだ。

　そうしてたどり着いたのが、たい焼きを配るというアイデアだ。

　〈ありがとう、おいしかったよ〉〈また来てください、まってまーす〉

　子供たちからもらった手紙は宝物だ。「もっといろんな所に笑顔を届けたい」。活動を広げるため、斎藤さんは母子生活支援施設や貧困家庭の多い地域にもトラックを走らせている。